借金返済に悩んでいるときに耳にすることが多い「債務整理」と「任意整理」。どちらも借金問題を解決するための手続きですが、その意味や特徴には大きな違いがあります。
「債務整理と任意整理の違い」を正しく理解していないと、自分に合った方法を選べず、返済負担を軽減できるはずのチャンスを逃してしまう可能性もあります。また、任意整理を検討している人のなかには「任意整理はしない方がいいケースもあるのでは?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実際、任意整理は利息のカットや返済計画の見直しが可能な一方で、元本自体は減額できないため、返済能力がない人には向いていません。さらに債務整理や任意整理の費用に関しても、弁護士や司法書士に依頼するかどうか、またどの手続きを選ぶかによって大きく変わってきます。
本記事では、債務整理の基本から任意整理の特徴、個人再生や自己破産との違い、費用相場、そして任意整理をしない方がいいケースまで徹底解説します。借金問題に直面している方が、自分にとって最適な解決方法を選べるように、ぜひ参考にしてください。
債務整理とは具体的になにを指すのか?

債務整理とは、借金返済の負担を軽減する手続きの総称であり、任意整理は債務整理のうちの1種類です。まずは、債務整理とはどのような手続きなのか?任意整理と債務整理の違いは何か?について詳しく解説します。
借金返済の負担を軽減する手続きの総称
債務整理は、借金返済の負担を軽減するために行われる手続きを指し、主に以下の種類があります。
・任意整理
・個人再生
・自己破産
上記すべての手続きを総称して「債務整理」と呼びます。債務整理を行うことによって、借金を減額できたり、免責(支払い義務の免除)にできたりします。減額できる金額は行う債務整理手続きの種類によって異なります。
また、それぞれの手続きの流れや特徴、費用は大きく異なります。それぞれの債務整理の特徴等についても本記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
任意整理は債務整理の1種類
任意整理は、債務整理手続きの中の1種類です。先ほども解説したとおり、債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類あります。つまり、任意整理は手続きの名称であり、債務整理は借金返済負担を軽減するための手続きの総称という意味で違いがあります。
債務整理の種類と検討すべき人の特徴

債務整理は、任意整理を含む全3種類の手続きがあります。それぞれの手続きと特徴は以下のとおりです。
債務整理手続き | 特徴 |
---|---|
任意整理 | 利息のみをカットして元金のみを3〜5年で完済を目指す手続き |
個人再生 | 借金を大幅にカットできる手続き |
自己破産 | すべての債務を免責にできる手続き |
次に、任意整理やその他債務整理の特徴について詳しく解説します。
任意整理|利息をカットして元金のみを3〜5年で完済

任意整理は、弁護士や認定司法書士が債権者と直接交渉をして、原則利息をカットして元金のみを3〜5年かけて完済を目指す債務整理手続きです。任意整理によってカットできる利息は以下の3種類です。
・経過利息
・将来利息
・遅延損害金(遅延利息)
経過利息とは、これまでに発生している利息を指します。将来利息とは、今後発生する利息を指し、遅延損害金は返済遅延によって発生している利息です。原則、これらの利息をすべてカットして元金のみを3〜5年で完済を目指すのが任意整理という手続きです。
ただし、任意整理は交渉手続きであるため、必ずしもすべての利息をカットできるとは限りません。債権者側が交渉に応じなければ、一部カットもしくは利息カットができず、満額を返済しなければいけない可能性もあります。
任意整理を検討すべき人の特徴
任意整理を検討すべき人の特徴は以下のとおりです。
・返済能力がある人
・特定の借金のみを整理したい人
任意整理は基本的に元金以上の借金が残ります。そのため、返済能力がある人でなければ交渉ができません。一度任意整理による和解が成立したにも関わらず、再度、支払いに遅れてしまうと一括請求等のリスクが高まります。
また、一度成立した和解案を無視して支払いに遅れたことにより、再度の和解が難しくなるため、返済能力の有無が大切です。
そして、任意整理は「特定の借金のみを整理できる」のが特徴です。たとえば、消費者金融と自動車ローンの借金を抱えている人が「車を手放したくない」と言う理由から「消費者金融のみを整理する」といった選択をできるのが特徴であり、メリットです。
任意整理をしないほうが良いケース
任意整理は、必ずしも万能な債務整理手続きであるとはいえません。その主な理由は、「原則元金のみは残る」ためです。そのため、以下に該当する場合は任意整理以外の債務整理を検討したほうが良いでしょう。
・返済能力がない
・借金総額が高額
返済能力がない人は、そもそも任意整理ができません。任意整理で和解が成立しても元金を3年〜5年かけて返済する必要があるためです。たとえば、失業等の理由により収入が大幅に減少したとしましょう。
この場合、任意整理をしたとしても返済できる見込みがありません。そのため、仮に和解が成立したとしても返済が滞る可能性が高いためです。万が一、一度和解案が成立したにも関わらず、改めて滞納してしまった場合は一括請求されてしまいます。
再度交渉を行うこともできますが、あまり現実的ではないでしょう。そのため、返済できる見込みがない人は、個人再生や自己破産といった債務整理手続きを検討すべきです。
そして、借金の総額が高額である人も任意整理以外の債務整理を選択すべきでしょう。たとえば、以下の借金を抱えていたとしましょう。
借入先 | 借金額 |
---|---|
消費者金融 | 200万円 |
クレジットカード | 300万円 |
自動車ローン | 300万円 |
上記状況の場合、借金総額は800万円となります。仮に、任意整理を行っていずれか一社のみの利息をカットできたとしましょう。それでもなお、高額な借金が残り、利息負担も大きくなります。
そのため、上記のように借金総額が高額である場合は、個人再生や自己破産のように借金を大幅に減額もしくは免責できる手続きを検討したほうが現実的です。
仮に任意整理をして一時的に解決できたとしても、いずれ返済できない状況に陥る可能性が高いです。また、上記3社をそれぞれ任意整理した場合、個人再生や自己破産を選択したほうが費用を抑えられる可能性もあります。
そのためまずは、「自分に合った債務整理手続きは何か?」を確認するためにも、弁護士や司法書士といった専門家へ借金相談を検討しましょう。
個人再生|借金を大幅にカットできる手続き

個人再生は、借金を大幅に減額できる債務整理手続きです。法的手続きであり、裁判所を介して行わなければいけないため、任意整理と比較して手続きは複雑です。
また、個人再生による借金の対象は、住宅ローンを除くすべてです。そのため、たとえば自動車ローン契約のある人が個人再生を行った場合は、自動車をローン会社に回収されてしまうため注意しなければいけません。
個人再生は、かならず残債が発生します。これを「最低弁済額」と呼びますが、最低弁済額は以下の基準のいずれかが選択されます。
・最低弁済基準
・清算価値保障基準
・可処分所得基準
最低弁済基準とは、個人再生の対象となる借金額に応じて最低弁済額が決定する基準であり、基準額は以下のとおりです。
債務合計 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円〜500万円 | 100万円 |
500万円〜1,500万円 | 1/5まで減額 |
1,500万円〜3,000万円 | 300万円 |
3,000万円〜5,000万円 | 1/10まで |
清算価値保障基準とは、財産を残しておく場合にその財産価値と同額が最低弁済額となる基準です。たとえば、最低弁済基準による最低弁済額では「100万円まで減額可能」である人が300万円の現金を残しておきたいと考えた場合、清算価値保障基準によって最低弁済額が300万円になります。
可処分所得基準とは、個人再生のうち「給与所得者等再生」による手続きを行う場合に選択される可能性がある基準です。可処分所得基準が選択された場合、可処分所得(手取り所得)の2年分もしくは最低弁済額基準のいずれか高額なほうが最低弁済額となります。
個人再生を検討すべき人の特徴
個人再生を検討すべき人の特徴は、以下のとおりです。
・住宅ローンが残っている人
・財産を残しておきたい人
・自己破産できない人
個人再生は、住宅ローン以外の借金を対象に減額できます。そのため、住宅を手放したくない場合は、個人再生を検討しましょう。
そして、財産を残しておきたい人は、個人再生を検討すべきです。先ほども解説したとおり、個人再生は財産を残したままでも手続きを行えます。最低弁済額が高額になる可能性はあるものの、借金とのバランスを考慮し、検討する余地はあるでしょう。
自己破産をできない人も個人再生による手続きを検討してみましょう。たとえば、自己破産によって資格制限を受ける職業に就いている人、免責不許可事由に該当し、そもそも免責許可がおりない人などが該当します。

自己破産|すべての債務を免責にできる手続き

自己破産は、非免責債権を除くすべての借金を免責(返済義務の免除)にできる債務整理手続きです。非免責債権とは、税金や公共料金等の租税公課や損害賠償金、養育費などが該当します。
つまり、一般的に「借金」と呼ばれるものについては、すべて免責にできます。そのため、債務整理手続きの中ではもっとも経済的な効果が大きいです。
ただし、自己破産が認められた場合は一定以上の財産をすべて処分しなければいけません。たとえば、住宅や自動車といった高額な資産とされるものについてはすべて処分し、すべての債権者に平等に分配しなければいけません。
自己破産を検討すべき人の特徴
自己破産を検討すべき人の特徴は以下のとおりです。
・借金返済が難しい人
・資産・財産がない人
自己破産は、非免責債権を除くすべての借金が対象となり、免責になります。任意整理や個人再生の場合は、かならず残債が発生するため、返済能力がなければそもそも手続きを進めることができません。
一方で、自己破産であればすべての借金を免責できるため、返済能力がない人に向いている債務整理手続きであると言えます。たとえば、「病気で働けなくなった」という場合は、自己破産を検討すべきでしょう。
そして、現時点で資産や財産がない人は自己破産を検討すべきでしょう。資産や財産を持っていると、すべて換価処分の対象となるため、この場合は個人再生を検討したほうが良いです。
いずれにせよ、どの債務整理手続きを検討すべきか悩んでいる場合は、初めに弁護士へ相談をしたうえで自分に合った適切な方法を検討しましょう。
債務整理の費用相場

債務整理は、弁護士もしくは認定司法書士に依頼をしたうえで手続きを進めるのが一般的です。いずれの手続きも、本人自身が行うこともできますが、手続きが複雑であり、スムーズに進まないケースも多いためです。
弁護士や認定司法書士へ債務整理を依頼した場合の費用相場は以下のとおりです。
債務整理手続き | 費用相場 |
---|---|
任意整理 | 3万円〜 |
個人再生 | 50万円〜 |
自己破産 | 30万円〜 |
費用は、相談する事務所や専門家によって異なります。それぞれの費用相場について詳しく解説しますので、債務整理を検討されている人はぜひ参考にしてください。

任意整理|費用は3万円〜
任意整理の費用相場は以下のとおりです。
依頼先 | 費用相場 |
---|---|
弁護士 | 3万円+減額できた金額の10% |
司法書士 | 3万円〜5万円 |
弁護士の場合は、1社あたり3万円+減額できた金額の10%程度が相場です。たとえば、任意整理によって利息分100万円が減額できた場合は、3万円+10万円=13万円が費用相場となります。司法書士の場合は、1社あたり3万円〜5万円程度が費用相場です。
一見すると司法書士のほうが費用を抑えられそうですが、対応できる範囲が異なるため注意が必要です。
弁護士は、1社あたりの債務額に上限はありません。しかし、司法書士の場合は元本140万円までという上限があります。そのため、140万円を超える場合は弁護士への相談が必要となります。
個人再生|費用は30万円〜
個人再生の費用相場は以下のとおりです。
依頼先 | 費用相場 |
---|---|
弁護士 | 50万円~80万円 |
司法書士 | 30万円~40万円 |
個人再生は、住宅ローンの有無によって費用が大幅に変動します。住宅ローンがあり、住宅ローン特則を利用する場合は、費用相場が10万円以上高額になるケースが多いです。
また、個人再生を司法書士へ依頼する場合は、1社あたりの債権額が140万円以下でなければいけません。これを超える場合は、弁護士への相談が必要となるため注意しましょう。
自己破産|費用は30万円〜
自己破産の費用相場は以下のとおりです。
依頼先 | 費用相場 |
---|---|
弁護士 | 30万円~60万円 |
司法書士 | 20万円〜30万円 |
自己破産は、財産の有無によって報酬が異なります。一般的な個人の場合は30万円〜60万円程度(弁護士へ相談をした場合)が相場ですが、法人のように債権者が多い場合や高額な財産・資産を有している場合は高額になる傾向です。
債務整理と任意整理に関するよくある質問

債務整理と任意整理に関するよくある質問を紹介します。
Q.任意整理と自己破産、どちらを選ぶべきですか?
A.一概にどちらを選ぶべきか判断することはできません。
任意整理と個人再生、それぞれにメリットやデメリットがあります。個別事案ごとに検討すべき債務整理の方法は異なるため、まずは弁護士や司法書士といった専門家への相談を検討されてみてはいかがでしょうか。
Q.任意整理をすると家族や保証人に影響はありますか?
A.任意整理による影響はほとんどありません。
任意整理をして家族に影響が出る可能性は低いです。そもそも、任意整理は特定の債務のみを整理できる手続きであるため、家族や保証人に迷惑のかかる恐れのある債務は除外できます。
たとえば、家族が自動車ローンの保証人になっており、自動車ローンを任意整理したとしましょう。この場合、ローン会社は保証人である家族に残債の返済を求める可能性があります。
しかし、本記事で解説しているとおり、任意整理は特定の債務のみを選択可能であるため、保証人がついている自動車ローン以外の債務を任意整理すれば影響はありません。
個人再生や自己破産の場合、すべての債務が対象となります。そのため、保証人が付いている債務がある場合は、保証人に請求が届きます。保証人が付いていない場合は、家族に影響を与えることはないため安心してください。
Q.任意整理は自分でできますか?
A.法律上は自分でも行えます。
基本的に任意整理は弁護士や司法書士へ依頼をして交渉を行ってもらう手続きです。しかし、任意整理自体が「交渉手続き」であり、自分自身で債権者と交渉をしても問題ありません。
しかし、弁護士や司法書士へ依頼をした場合と比較して、スムーズな交渉ができなかったり減額できる金額が少なくなったりする可能性があります。
もし、個人での任意整理を検討するのであれば、「特定調停」という手段を検討されてみてはいかがでしょうか。特定調停は、債務者本人が裁判所へ行って債権者と交渉を行う手続きです。
調停委員と呼ばれる人が仲介し、お互いに納得できる落とし所を見つけて和解できるように調整してくれます。費用も数百円から数千円程度と任意整理を弁護士や司法書士へ依頼した場合と比較して安価です。
Q.任意整理による影響はありますか?
A.任意整理をすることによって、個人信用情報機関に「参考情報」が残ります。
任意整理をすることによる唯一の影響は、個人信用情報機関に異動情報が記載されてしまうことでしょう。異動情報が記載されることによって、新たなローン契約等が難しくなります。
また、保証人が付いている借金を任意整理した場合は、保証人に請求がいく可能性があります。このことも任意整理における影響の一つと言えるでしょう。ただ、任意整理は特定の債務のみを整理できるため、保証人がいる借金以外を整理することで保証人への請求を回避できるでしょう。
Q.任意整理で借金が減らない可能性はありますか?
A.任意整理をしても借金が減らない可能性はあります。
任意整理は、債権者との交渉手続きであるため債権者側が一切交渉に応じない姿勢を示した場合、和解が成立しません。この場合は借金が減らない可能性もあるでしょう。
とくに契約して間もないのに任意整理手続きを開始したような場合は、難色を示す業者が多いです。長く取引を続けており、債権者側にもある程度の利益を発生させられている場合は、交渉に応じてくれる可能性が高いでしょう。
まずは、弁護士や司法書士へ相談をしたうえで、今後の手続きについて検討されてみてはいかがでしょうか。
債務整理と任意整理の違いのまとめ
この記事では、債務整理の基本から任意整理との違い、手続きにかかる費用、そして任意整理が向かないケースまでを解説しました。借金問題の解決方法は一つではなく、それぞれにメリットとデメリットがあります。
任意整理は利息をカットして返済を軽くできる一方で、元金が減るわけではないため、状況によっては個人再生や自己破産のほうが適している場合もあります。また、手続きごとに費用が大きく異なるため、経済状況を踏まえて無理のない選択をすることが大切です。
重要なのは、どの方法を選ぶかを一人で悩まないことです。借金を抱えていると精神的にも追い詰められがちですが、専門家に相談することで、自分では気づけなかった選択肢が見えてくることがあります。
早めに行動すれば、生活を立て直すチャンスは十分にあります。「返済が厳しい」「今のままでは続けられない」と感じたら、まずは弁護士や司法書士に相談してみてください。新しい一歩を踏み出すきっかけは、意外と小さな勇気から始まります。

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