借金に悩む人にとって、債務整理は大変有効な手続きです。主な債務整理として「任意整理」「個人再生」「自己破産」は比較的周知されている手続きですが、他にも「特定調停」という方法があるのをご存知でしょうか。
特定調停は知らない方も多い手続きです。「任意整理と似ている気がするけれど何が違うのだろうか?」と、疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
そこでこの記事は、特定調停のメリット・デメリットや手続きの流れについて、任意整理との違いもあわせて解説します。債務整理を検討中で、特定調停が気になるという方はぜひご一読ください。
特定調停とはどんな債務整理の手続きなのか

特定調停とは、債務者(借りる側)と債権者(貸す側)との話し合いを簡易裁判所が仲介し、返済方法などを調整して合意ができるよう働きかける債務整理の一種です。
債務整理の多くは、弁護士や司法書士の専門家に手続きを依頼します。しかし債務整理の中でも特定調停は、専門家に依頼せず債務者本人が簡易裁判所に申し立てを行うことができる手続きです。
そのため、債務整理の費用を節約したいと考える人の選択肢として検討されやすい手続きといえるでしょう。
なお、特定調停を利用できる条件として次の2点が求められます。
- 減額後の借金が3年程度で返済できる人
- 継続して収入が見込める人
特定調停のメリットについて解説

簡易裁判所で調停委員が仲介し債権者との調整や交渉を行う特定調停には、次のようなメリットがあります。
【調停委員とは】
調停委員は,調停に一般市民の良識を反映させるため,社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には,原則として40歳以上70歳未満の人で,弁護士,医師,大学教授,公認会計士,不動産鑑定士,建築士などの専門家のほか,地域社会に密着して幅広く活動してきた人など,社会の各分野から選ばれています。
(引用元:調停委員│裁判所)
- 自分で手続きできるため費用を抑えられる
- 調停委員が間に入るため債権者と直接交渉しなくても良い
- 特定調停申立て後に債権者からの督促が止まる
- 資格制限や官報への記載がない
- 借金の理由は問われない
- 既に始まっている強制執行を停止できる
- 手続きできる債権者を選ぶことができる
- 借入当初に遡って引き直し計算をするため借金が減額される可能性がある
1.自分で手続きできるため費用を抑えられる
前述のとおり、特定調停は自分の力だけで申し立てができる手続きです。
申立書類についてわからないことは裁判所で質問することができますし、話し合いは調停委員主導で行われます。
そのため、費用を抑えたい人には大きなメリットがある手続きです。ただし、特定調停を専門家に依頼することもできます。
2.調停委員が間に入るため債権者と直接交渉しなくても良い
特定調停では借金の減額や返済計画について調整を行い、当事者同士が納得できる和解を目指します。
その際、裁判所から選任された調停委員が両者から意見を聞き、調整役として間に入ってくれます。
自分が債権者と直接交渉をする可能性はほぼなく、そのため債権者と口論になるなどの心配もないでしょう。
3.特定調停申立て後は債権者からの督促が止まる
特定調停の申立てが裁判所に受理されると、裁判所から債権者宛に申立受理通知書が発送されます。
申立受理通知書が届いたタイミングで、債権者からの督促は止まります(貸金業法第21条)。
また、手続きが行われている期間は督促がなくなるだけでなく借金の返済をする必要もありません。
【貸金業法第21条 取立て行為の規制 9項】
債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士、弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
(引用元:貸金業法)
4.特定調停は資格制限や官報への掲載がない
「資格制限」とは、破産手続きの中で一定期間、特定の職業や資格が制限されることです。
たとえば身近な職業では、弁護士・司法書士などの士業や警備員、生命保険外交員などがあります。このような職種の制限が特定調停にはありません。
「官報(かんぽう)」とは国が発行する機関紙で、さまざまな情報と共に自己破産や個人再生に関する情報も掲載されます。
自己破産・個人再生手続きを行う場合、破産法・民事再生法に基づき氏名や住所が官報に載りますが、手続き上避けることはできません。しかし、特定調停の手続きでは官報に掲載されることはありません。
5.借金の理由は特定調停で問われない
債務整理手続きの中には、借金の使途を厳しく問われるものがあります。
たとえば借金の理由がギャンブルや浪費である場合、自己破産手続きでは免責不許可事由に該当するため免責を得ることが難しいとされています。
しかし特定調停の手続きでは、原則的に借金の理由を問われることはありません。
6.既に始まっている強制執行を停止することができる
特定調停では、強制執行停止の申立も同時に行うことが可能です。つまり、滞納をして既に強制執行まで進行している債務がある場合、裁判所が特定調停を行うために強制執行の停止が必要だと判断すれば、停止できる可能性があります。
このような状況下の人にとって、強制執行停止の申立ができることは特定調停の大きなメリットといえるでしょう。
7.特定調停をする債権者を選ぶことができる
特定調停では、手続きをする債権者を選ぶことができます。
個人再生や自己破産ではすべての債権者が手続き対象となり、連帯保証人がいる借金については減免された分が連帯保証人に請求されることになります。
他にも、ローン返済中の自宅や車の借金を債務整理すると住宅は競売、車は引き揚げを余儀なくされるでしょう。
しかし特定調停では、連帯保証人がいたり担保がついていたりする借金については手続きの対象とせず、これまでどおり返済を続ければ財産を守ることができます。
8.借入当初に遡って引き直し計算をするため借金が減額される可能性がある
特定調停の手続きでは、任意整理と同様に借り入れ当初にさかのぼって引き直し計算が行われます。
引き直し計算とは、利息制限法に基づき年15%~20%の金利で再計算をすることです。過去に法定利息を超える高金利で借り入れをしていた場合、借金が減額される可能性があります。
特定調停のデメリットについて解説

特定調停のメリットをお伝えしましたが、手続きにはもちろんデメリットもあります。
メリットばかりにフォーカスして手続きを進め、想定外のトラブルに遭遇したとき「こんなはずではなかった」と行動を止めてしまうことがないように、手続き前にデメリットもしっかり頭に入れておきましょう。
- 調停が成立しない可能性もある
- 書類作成を自分で行わなければならない
- 債権者からの督促がすぐに止まらない
- 平日に裁判所へ出廷しなければならない
- 過払い金が発生していても返還されない
- 調停委員は債務整理の専門家ではない
- 期待したほど借金が減らない可能性もある
- 調停が長引き、遅延損害金が増えることもある
- 合意後に返済を怠った場合、強制執行が容易になる
1.特定調停は調停成立しない可能性もある
特定調停は、債務者と債権者の話し合いによって和解を目指す債務整理方法です。つまり債権者が同意しなければ調停は成立せず、成立するかしないかは相手次第という面もあります。
また、債務者に十分な収入がなく返済能力がない(生活のために必要な公共料金や税金、生活費などを引くと返済を続けられる収入がない)と判断された場合には、調停が終了となってしまいます(民事調停法第13条)。
【民事調停法第13条】
調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、事件を終了させることができる。
(引用元:民事調停法)
特定調停を申し立てすれば、必ず調停が行われるとは限らないのです。返済不可能と判断された場合、個人再生や自己破産など他の手続きで解決を図ることになるでしょう。
2.申立書類作成を自分で行わなければならない
特定調停は、専門家に依頼する費用を節約できる点がメリットといえますが、当然申立書類の作成や資料収集などをすべて自分で行わなければなりません。
特定調停の申立に必要な書式は、裁判所の窓口やホームページからダウンロードするなどして入手できます。
記載内容はさほど難しくなく、書き方がわからなければ簡易裁判所の窓口で尋ねれば教えてくれます。ただし、書類に不備があると受付をしてもらえません。
3.債権者からの督促がすぐに止まらない
裁判所が申立書を受理し、債権者に申立受理通知書を発送して以降、債権者は督促を止めます。
つまり、申立を終えるまでは債権者からの督促は止まらないということです。そのため申立手続きに時間がかかってしまうと、厳しい督促を受けながら準備を進めなければならなくなります。
一方、任意整理では弁護士に依頼すると受任通知発送後直ちに督促が止まります。督促が辛いと感じている人には、この差は大きいと感じるかもしれません。
4.平日に裁判所へ出廷しなければならない
およそ月1回のペースで行われる特定調停の期日には、申立人本人が1日目から出廷しなければなりません(民事調停規則第8条)。
大体2~3回の期日を経て調停が成立しますが、債権者が複数ある場合は調停の回数がさらに増える可能性があるでしょう。
また調停は平日の昼間の時間帯に行われるため、仕事や予定がある場合は調整がつくよう心づもりをしておく必要があります。
5.過払い金が発生していも返還はされない
過去に違法な利息で貸付を受けていた場合、引き直し計算をすると過払い金が発生していることがわかります。
任意整理の場合、残債から過払い金を差し引いた上で返済計画を協議しますが、特定調停では過払い金請求の手続きが別途必要(弁護士や司法書士へ依頼するか、不当利得返還訴訟の申立)になることがほとんどです。
特定調停は引き直し計算をして減額された借金について合意する制度であって、過払い金を回収する制度ではないためです。
そのため、特定調停では過払い金の返還まではされません。
6.調停委員は債務整理の専門家ではない
特定調停は、仲介者となる調停委員が債務者と債権者各々の希望を聞き、現状も加味した上で合意を目指す手続きです。
調停委員が必ずしも債務者側に立って考えてくれたり、債務者の希望をすべて聞き入れた条件で仲介してくれたりするとは限りません。また、手続きを担当する調停委員が債務整理について専門的な知識を持っているわけでもありません。
そのため、法律事務所では最初から特定調停をおすすめすることはほとんどありません。個々の借り入れ状況や収入に見合った債務整理を提案することが重要と考えているためです。
7.特定調停は期待したほど借金が減らない可能性もある
特定調停の手続きで引き直し計算を行っても、必ず大きく借金額が減るとは限りません。
自分が期待したほど返済額が減らない可能性もあります。
8.調停が長引き遅延損害金が増えることもある
特定調停では、相手との交渉が折り合わず不調に終わる可能性があります。 実際に調停成立率を見ても決して高いとはいえません。
また、調停手続き中も調停成立日までの未払い利息や遅延損害金は発生します。利息制限法で計算した元金(元本)に未払い利息+遅延損害金が確定額となり、それを3年程度で返済していくことになります。
そのため調停が長引くと未払いや遅延損害金の額も膨らみ、返済額が増えてしまう可能性もあります。弁護士での任意整理の場合、未払い利息や遅延損害金は含まれないことが多いため、この点も特定調停のデメリットと言えます。
9.調停合意後に返済を怠った場合は強制執行が容易になる
特定調停で合意すると、裁判所が「調停調書」を作成します。調停調書は、双方が合意した内容がまとめられている書面ですが、「債務名義」といって裁判の判決と同じ効力があります。
つまり、調停終了後に合意したとおりの返済ができなかった場合(一般的には返済2回分を遅延した場合に期限の利益喪失)、債権者は調停調書に基づき直ちに強制執行の申立ができるのです。
自分の状況に見合った返済計画かどうかをよく考えずに合意してしまうと、すぐさま給与差し押さえなどの強制執行が取られるリスクにさらされてしまいます。
【債務名義とは】
債務名義とは、債務者が給付義務を強制的に履行させる手続き(強制執行)を行う際に、その前提として必要となる公的機関が作成した文書のことです。簡単に言うと、裁判所のお墨付きのようなもので強制執行を行うための「証書」のような役割を果たします。
【債務名義の種類】
確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書、調停調書、執行認諾文言付公正証書、仮執行宣言付支払督促など
特定調停手続きの流れと期間・費用について解説

特定調停を自分で行う場合、あらかじめ手続きの流れやかかる期間を知っておくことは大切です。
この章では手続きの流れを時系列に解説し、おおよそかかる期間や費用についてもお伝えします。
特定調停手続きの流れを説明
特定調停手続きは以下のような流れになります。それぞれ詳しく解説しましょう。
- 特定調停申立て書類を作成する
- 簡易裁判所に申立後、債権者へ通知される
- 簡易裁判所へ調査期日に出席する
- 簡易裁判所の調停期日に出席する
- 債権者と合意すれば調停成立となり、調停が終了
1.特定調停申立書類を作成する
申立は、債権者の本店・営業所・事務所の住所を管轄する簡易裁判所に行います。簡易裁判所の調査方法ですが、自分の住所に近い債権者の住所をインターネットで検索し、住所がわかれば裁判所のホームページに掲載されている「裁判所の管轄区域」で確認できます。
申立書は簡易裁判所の窓口で入手するか、裁判所のホームページからもダウンロードすることができます。
申立には主に下記のような書類が必要です(裁判所によって異なる場合があるため、自分が申立する簡易裁判所へ確認しましょう)。申立書は難しい内容ではありませんが、不明点は申立てする裁判所の窓口で聞くと教えてくれます。
- 特定調停申立書 2部(正本・副本)
- 財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
- 権利関係者一覧表(すべての債権者の氏名・住所・初回契約年月日、借入残高などを記入する)
- 資格証明書(債権者となる金融機関の現在事項全部証明書など)
- 申立手数料(収入印紙)
- 予納郵便切手(郵便切手)
必要書類の準備ができたら、管轄の簡易裁判所の窓口へ提出します。
郵送でも申立は可能ですが、窓口へ出向くと不明点を直接質問できるでしょう。その後、事件受付票が交付され調査期日が指定されます。
2.簡易裁判所に申立後、債権者へ通知される
申立が受理されると調停委員会(裁判官1名、調停委員2名)がつくられ、債権者へ申立受理通知が送られます。
債権者に通知が届いたタイミングで督促が止まり、返済に追われることもなくなります。
ちなみに、特定調停の事件番号を債権者に伝えた後に督促があった場合は、貸金業法違反に抵触する可能性があるため、大手金融会社なら管轄する財務局に苦情を入れると必ず請求は止まります。
3.簡易裁判所へ調査期日(申立人の事情聴取日)に出席する
申立から約1か月後に指定される調査期日に、簡易裁判所へ出向きます。調査期日とは調停の準備を行う日であり、債権者は出頭しません。
調査期日では申立書の内容や債務状況、返済の見込み等について調停委員から質問や確認がされ、今後の返済計画案を検討します。調停委員が状況を把握しやすいよう、家計の収支表や債権者との契約書などがあれば持参するとよいでしょう。
事情を聞いた上で調停委員によって返済できる見込みがないと判断された場合は、個人再生や自己破産など他の方法を検討することになります。
また、裁判所から呼び出しがあった期日には必ず出席しなければいけませんが、仕事や都合でどうしても難しい場合は事前に日程変更を相談できます。
4.簡易裁判所の調停期日に出席する
調査期日から約1か月後に、第1回調停期日が指定されます。第1回調停期日では、調査期日で検討した返済計画案について債権者との間で各々個別に協議・調整を行います。
協議が整うと調停成立となりますが、成立するまで2回以上期日が設定される場合もあります。
また債権者の中には期日に出頭せず、事前に「17条決定を願いたい旨の上申書」を提出している場合が少なくありません。
この場合、調停委員が期日に債権者と電話で協議し申立人にも内容を確認した上で、裁判官が17条決定を作成することになります。
17条決定(調停に代わる決定)とは?
民事調停法の第17条に次のような規定があります。
「裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。」
この規定を基に、互いの意見が折り合わない場合に調停手続きをストップし、裁判所が適切だと思われる解決案を示すことがあります。
これを17条決定と呼び、最初からこの決定を求める債権者が「17条決定を願いたい旨の上申書」を提出するのです。
当事者が会社である場合、裁判所の決定ならば致し方ないという理由で社内稟議が通りやすいという事情もあるでしょう。17条決定が出て2週間以内に債務者から異議申立がなければ、調停が成立します。
5.債権者と合意すれば調停成立となり、調停が終了
調停委員と双方との協議の結果、合意が得られた場合には合意内容をまとめた調停調書を裁判所が作成して調停成立で終了します。
前述したように、債権者から17条決定を願いたい旨の上申書の提出があった場合は裁判官から17条決定が出されます。
債権者または債務者のどちらかが17条決定の内容に納得できず異議申し立てをした場合、特定調停は不成立で終了します。
調停が不成立で終わった場合は、他の債務整理を検討することになるため弁護士・司法書士などの専門家を探すことになります。
特定調停にかかる期間は約3ヶ月から4か月程度
特定調停の申立が簡易裁判所に受理されてから、調停が終了するまでの期間は3か月~4か月ほどでしょう。ただし債権者数が多い場合は、裁判所に出頭する回数が増えるため4か月を超える可能性があります。
また返済計画案の作成時点で、裁判所から返済見込みがなく調停は不成立と判断された場合には、2か月ほどで特定調停が終わることもあります。
特定調停にかかる費用は収入印紙代と切手代のみ
特定調停手続きにかかる費用は、収入印紙代と切手代のみです。手続きを弁護士に依頼する場合はその費用もかかります。
簡易裁判所によって運用は若干異なりますが、たとえば東京簡易裁判所に個人が特定調停を申立する場合、申立手数料として債権者1社につき500円の収入印紙、裁判所から書類送付などに使う郵便切手が債権者1社につき420円です。
特定調停の成功率はどれくらいなのか?

特定調停は、一般的に成功率が低いとされています。
次に示す表は、裁判所が発表している司法統計情報の「第78表 調停既済事件数-事件の種類及び終局区分別-全簡易裁判所(令和2年度年報)(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/084/012084.pdf)」から、特定調停の箇所だけを抜粋したものです。
特定調停申立総数 | 2,423件 |
---|---|
調停成立 | 349件 |
調停不成立 | 218件 |
調停に代わる決定 | 1,284件 |
調停条項を定めたもの | - |
調停条項を受託したもの | - |
調停をしないとしたもの | 42件 |
取り下げ | 507件 |
その他 | 23件 |
上の図からわかることは、特定調停の申立総数2,423件に対し成立件数は349件と成功率が14.4%であることです。確かに成功率が低いという印象を受けることは否めません。
ただし成功率が低い主な理由の1つに、債権者が調停期日に欠席したため調停が成立しなかったことがあげられます。表の調停に代わる決定1,284件とは、先ほど解説した17条決定のことです。このように債権者が初めから17条決定を希望し、出廷しないケースが増えているのです。
話し合いによる調停成立を望む場合、不調に終わる可能性が高いことは上記のとおりですが、17条決定を含めると調停の決着がみられた割合は67%を超えます。それでもやはり、任意整理手続きと比べるとかなり低い印象です。
特定調停と任意整理は、共に債権者が応じてくれないと成立・和解できない手続きです。しかし、任意整理が特定調停と異なるのは弁護士が代理人として粘り強く債権者に交渉したり、最終的に依頼人にとってプラスとなるよう熟考したりといった行動を取れるという点にあります。
また、特定調停では調停が不調に終わった場合、他の方法で解決を目指すことになり一から専門家を探す手間と費用の負担が発生します。
費用をできるだけ節約したいと考え特定調停を選んだのに、最初から任意整理を選択した場合よりさらに費用と手間がかかってしまうという結果になる可能性があります。
特定調停と任意整理の手続き上の違いを解説

特定調停と任意整理の手続きを改めて確認してみましょう。それぞれ次のような手続です。
特定調停 | 裁判所の調停委員が仲介に入り債務者と各債権者との間で和解成立を目指して支援する公的な手続き (弁護士が代理人になることも可) |
---|---|
任理整理 | 弁護士が債務者の代理人となって各債権者と和解できるよう交渉を進める私的な手続き |
特定調停と任意整理には、次の表のような違いがあります。
特定調停 | 任意整理 | |
---|---|---|
裁判所の関与 | 裁判所が仲介役をする公的な手続き | 裁判所の関わりがない私的な手続き |
取立が止まる時期 | 申立が完了すれば取立はストップ | 弁護士に依頼後、速やかに取立がストップ |
債権者との交渉 | 原則として本人が行うが(弁護士が代理人となることも可)、裁判所が仲裁する | 弁護士が代理人として交渉する |
手続きの内容 | 債務者と債権者の間で調停委員が仲介する | 債務者の代理人が債権者と交渉する |
費用 | 1社あたり1000円程度 (収入印紙代500円、郵便切手代約500円) | 法律事務所によって異なるが弁護士費用が発生する |
解決方法 | 調停の成立後、調停調書が作成される | 債権者との和解後、和解書を取り交わす |
債務名義 | 調停調書は裁判の判決と同じ効力があるため、返済ができなくなった場合はすぐさま給料差押等の強制執行をされる可能性がある | 債務名義はないため、和解書による強制執行はできない |
遅延損害金 | 調停成立までの遅延損害金が加算される場合がある | 和解成立までの遅延損害金は原則として加算されない |
過払い金 | 過払い金が発生していても調停では返金されないため、別途請求手続きが必要になる | 過払金を含めた返済について交渉ができる |
時間があり費用を抑えたい人は特定調停がおすすめ
費用を抑えたいなら自分で手続きができる特定調停です。1社千円程度で申立てができるため、債権者が複数あってもさほど高額にはなりません。
ただしデメリットの章でもお伝えしたとおり、煩雑な申立書類の作成や債権者からの督促が申立て完了まで止まらないことに加え、手続き後に返済ができなくなった場合、すぐさま債務名義により差押えができることは大きなマイナス面です。
また、平日の日中に裁判所までたびたび出頭しなければならない手間も仕事を持つ人にとっては苦痛かもしれません。
時間と手間をかけたくない人は任意整理がおすすめ
手続きに時間と手間をかけたくない・かけられない人には、任意整理がおすすめです。
一度弁護士に依頼すると、その後は依頼者がすることは特にありません。債権者との交渉に入ってからは交渉内容について確認の連絡が入ることはありますが、基本的には和解が整ったことの報告を受けるまで待っているだけで大丈夫です。
その後も債権者と和解書を交わすなどすべて法律事務所が行うため、依頼人は弁護士費用の支払い(多くの事務所で分割も可)を行い、手続きが終わったら債権者への返済を開始するだけです。
ただし、特定調停と任意整理いずれを選択してもブラックリストへの掲載は避けられません。債務整理や支払いの延滞などをしたときに、そのことが信用情報機関に事故情報(異動・参考情報)として登録されます。ブラックリストとは、異動・参考情報が信用情報機関に登録された状態のことを指します。
特定調停に関するよくある質問Q&A

ここからは特定調停の手続きに関して、問い合わせの多いご質問にお答えします。
- 特定調停では、債権者と直接話し合いをすることになりますか?
-
特定調停では、簡易裁判所から選任された調停委員が、債務者と債権者それぞれの言い分を聞き取りし、返済計画案を作成していきます。
昨今では、債務者の言い分を充分聞き取れるよう、ほとんどの意見聴取は債務者と債権者各々別期日に行われています(裁判所の運用にもよります)。そのため、債権者と直接話し合う可能性はかなり低いといえるでしょう。
- 調停委員にはどのようなことを質問されますか?
-
調停委員と本人が出席する調査期日では、調停委員から申立書の内容や債務状況の確認以外に、支払原資の有無や援助の有無、今後の生活の見込み等について質問されます。
借金に関する個人的な事情で伝えたいことがある場合も、この場で相談してみましょう。これらの事情を踏まえた上で、相談しながら返済計画案を作成していきます。
- 特定調停をすると必ず借金は減りますか?
-
減額ができるのは、法定利息を超えた高金利で貸付を受けていた場合です。しかし、特定調停では将来利息のカットが望めるため、減額にならないから特定調停をする意味がないとはいえません。
たとえば100万円を18%の利息で借り入れしている場合、1年間に支払う利息は単純に計算すると18万円です。この将来利息をカットできるメリットは大きいと考えられるでしょう。
- 特定調停が不成立となった場合、借金はどうなりますか
-
債権者が決定に対して異議を出したり、債務者が特定調停を取り下げたりなどの理由で特定調停が不成立となった場合、調停はそのまま終了することになります。
特定調停が不成立で終了すると借金の減額等の効果は発生しません。また、特定調停の申立から止まっていた債権者の督促も、調停不成立によって再開することになります。そのため、特定調停が不成立となった場合には、それ以外の債務整理手続き(任意整理、個人再生、自己破産)を検討しなければならないでしょう。
- 税金や公共料金を滞納した借金について、特定調停はできますか?
-
税金や年金などを滞納している場合、国や地方自治体に対して特定調停を申立することはできません。国や地方自治体の窓口に相談しましょう。
国税は所轄の税務署、地方税は県税事務所や市区町村に相談窓口があります。支払いが困難と認められる事情がある場合は、分割での納付に応じてもらえる可能性があります。
水道・ガス・電気などの公共料金も同様です。それぞれの窓口に相談してみましょう。
特定調停を迷っている人へアドバイス
特定調停は債務整理の中でも自分で手続きを進めやすいことから、費用を節約したいと考える人には魅力的な手続きといえるでしょう。そのため、特定調停を選択する人も一定数いらっしゃいます。
ただし、ご自身で特定調停を行う場合、裁判所に申立さえすれば後はすべて調停委員に主導してもらえるというわけではありません。申立受理後から始まる裁判所とのやりとりや手続きは基本的にすべて自分1人で行わなければならないことを理解しておきましょう。
さらに特定調停の手続き中にトラブルが発生した場合の判断などは、法律の知識が必要となる可能性があることも頭に入れておいた方がよいでしょう。
手続きにかかる費用が重要なことはもちろんですが、さらに大切なことは特定調停がご自身の借金問題に最適な解決方法であるかどうかということです。
借金問題の解決方法は皆同じではなく、個々の事情にあった方法で解決することが最終的な満足につながります。弁護士などの専門家に相談すると、ご自身の事情に合ったアドバイスを受けることができます。
特定調停と任意整理を比較して、ご自身の借金問題解決にはどちらの方法が適しているのか無料相談で聞いてみるのもよいでしょう。
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